偽りの仮面 第3話


「話は終わりだ。ゼロを捕えよ!!」

ゼロの策が見えた以上相手をする必要は無いと、コーネリアは命令を下した。
クロヴィスの仇であり、テロリストグループ黒の騎士団のトップ。
この男を捕らえ処刑すれば、エリア11は静かになるだろう。

「姫様!偽物が!」

ギルフォードの声で、コーネリアは視線をゼロから偽ゼロへと移動させ、呆れたようにつぶやいた。

「やはり、ただの馬鹿だったか」

これでひとつ、無駄な遺体が増えるな。と、コーネリアは呟やいた。
この男の行動など、コーネリアにとってはその程度のものだった。
とてもゼロには見えない仮装・・・いや、変装をしていた偽ゼロは、立てこもるテロリストの説得をあきらめたのか、突然駆けだし、たった一人で銃火器を持つテロリスト相手に特攻を仕掛けていたのだ。
いや、正確にはテロリストに、ではない。
奴らは全員建物の中だ。
偽ゼロが向かう先にあるのは、固く閉ざされたシャッターだけ。
何がしたいのかは解らないが、この男に挑発されテロリストが反応を示したならそれはそれでよし。こちらが突入するまでの時間稼ぎになるなら、それもよし。
何も無ければ、予定が何も変わらないだけだ。
そう思っていたのだが。
コーネリアは、自分の目を疑った。
いや、コーネリアだけでは無い。
それを目にした者は全員、驚きのあまり思考を停止させ、一体何が起きたのか現状を理解するまでに時間がかかった。

偽ゼロは、迷うことなくシャッターに手をかけた。
それを見て、愚かだと考える間もなく、不快な機械音が辺りに響き渡った。その役目を果たすために閉じようと足掻く機械が発した音はそのままに、シャッターは次第に持ち上げられていく。機械が負けたわけではない、シャッターの上部、偽ゼロの手にした場所より上の金属が大きな音を立てて歪み、つぶれていっているのだ。
金属が歪み、こすれる不快な音と、機械があげる悲鳴のような音。
それらの音に、耳をふさぐだけの精神的な余裕など、この場にいる誰にも無かった。
誰もが、ただ呆然とこの異様な光景を見つめていた。
そう、テロリストもまた、声を無くしまるで白昼夢を見ているかのような表情で、偽ゼロがシャッターを人力で歪ませているのを、見つめていた。
テロが活発なエリア11にある、最も大きなブリタニア銀行。
その建物は、テロを想定した作りとなっている。
防弾防爆防刃あらゆるものに対して、最高の強度を誇っているのだ。
当然、このシャッターも。
人の力で持ち上げることも、ましてや歪めることもできるはずの無いものが、目の前で歪み続けていた。
KMFならば解る。
だが、人間なのだ。
銀行を守る強固なシャッターを、たった一人で道具も使わずにこじ開けているのだ。

やがて、シャッターは人が通れるほど持ち上げられた。
偽ゼロが手を離しても、変形してしまったシャッターはもうその役目を果たせなくなっていて、それでもどうにか入口を閉ざそうと、機械は唸り声を上げ続けていた。
視界を遮るものがなくなり、銀行の中が顕になる。
ガラス張りの自動ドアの向こう側には、銃を構える事も忘れ大口を開けたまま硬直する犯人の姿が見えた。
滑稽なその姿に、普段であれば笑い飛ばし、これは好機だと命令を下すコーネリアもまた、思考を止めていた。
誰もがこの事態に呆然としている中、偽ゼロはコンコンとガラスを数度ノックした。
強化ガラスの硬度を確認する仕草を目にし、全員の背筋に冷たい汗が流れた。
偽ゼロは軽い足取りで数mガラスから離れた後、ガラスめがけ全力で駆けだした。そして飛び上がった後、くるくると回転し、その勢いのまま強化ガラスを蹴破った。テロリストの襲撃に備えた、あのガラスをだ。ヒビは入るが、銃弾を防ぐ事の出来る防弾ガラスを、小規模な爆破にも耐えうる強化ガラスを、この偽ゼロはあっさりと蹴破ったのだ。
刃物でも、銃火器でもなく、ましてやKMFでもない。
人の、足で。
あり得ない光景に、その場にいた全員の視線が釘付けとなった。
ガラスは破片を飛び散らさず、割った、砕いたというよりは、破いたと言う言葉が当てはまるような状態だった。偽ゼロは、さも当たり前のように割れたガラスを更に裂き、体を滑り込ませ銀行内へと足を踏み入れた。
明るい室内には、テロリストと縛りあげられた人質たちがおり、全員が呆然とした表情で偽ゼロを見つめていた。

・・・あれ?みんなどうしたんだろう?
テロリストも動かないし・・・これってチャンスなんじゃ?

そう考えるより早く偽ゼロは、テロリストに向かって駆けていた。
偽ゼロが駆け寄ってきたことで驚き我に返ったテロリストだったが、人間離れしたスピードで駆てきた偽ゼロになすすべなく殴り倒され、蹴り倒された。
流れるような動きで、瞬く間にテロリスト全員を無力化させた偽ゼロは、息を切らす事無く堂々と、マヌケな衣装で胸を張り立っていた。

「テロリストはこれで全員ですか?」

人質に向かい偽ゼロが尋ねると、人質たちは正気を取り戻し、自分たちが知っているのはこれで全員だと告げた。

「そっか、よかった。ブリタニア軍が外で待機していますので、もう安心ですよ!」

その姿からは想像もできないほど、明るく爽やかな声で偽ゼロは言った。

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